
1番目の幼稚園に入園した頃のことです。
入園式の前に、
少しでも不安が和らげばと思い、
先生にお願いして園の中を見せていただきました。
ここちゃんは、
見通しがないと入れないことがあったので、
当日の様子が少しでも分かるようにと、
ぐるりと見て回ったのを覚えています。
当日。
少し不安そうではあったけれど、
なんとか幼稚園まで来ることができて、
「大丈夫かもしれない」
そんなふうに思っていました。
この頃のここちゃんは、
少し敏感な時期で、
洋服ひとつでも、
すんなりと着られないことがありました。
入園式の服も、
大丈夫なものを一緒に選んで、
何度も着る練習をしていたのを覚えています。
それでも当日、
少しざわついた雰囲気の中で、
門をくぐることができて、
そこまでは、
順調だったのです。
大きな部屋に、
保護者が円を描くように座り、
その前に子どもたちが並んでいました。
式が始まり、
ここちゃんも最初は、ちょこんと座っていました。
けれど、
主任の先生が前に立った瞬間でした。
すっと円の真ん中に入っていって、
その周りをくるくると回り始めたのです。
嬉しそうに、
軽く跳ねるように。
まるで、野うさぎのように。
……と思ったのも束の間で、
今度は園長先生によじ登ろうとしたり、
床に寝転がって足をばたばたさせたりして、
その動きは、
私の想像をはるかに越えていました。
くすくすとした笑い声。
やがて、
静まり返る空気。
「……あの子、すごいねえ」
どこからか、そんな声が聞こえました。
私は、
どうしていいのか分からず、
ただその場に座っていました。
式の空気を壊してしまっていることへの申し訳なさと、
どうしていいのか分からない気持ちと、
少しの恥ずかしさもあって、
ただ見ていることしかできませんでした。
やがて、
そのまま外へ飛び出していってしまい、
思わず立ち上がった私に、
担任の先生が
「お母さんは戻ってください」と声をかけました。
式のあと、
お詫びをすると、
「想定内でしたから」
と、ピシャリと言われたのを覚えています。
その時の空気も、なんとなく残っています。
何より、
いちばん驚いていたのは、
私だったのかもしれません。
あんな娘の姿を、
それまで見たことがなくて。
しかも、
よりにもよって、あの場で。
先生にとっては想定内でも、
私にとっては想定外で、
あの時、はじめて
知らない娘の姿を見たような、
そんな感覚でした。
記念撮影のときには、
さっきまでとは別人のように、
ここちゃんはぬいぐるみをぎゅっと握りしめて、
落ち着かない様子で立っていました。
それから何年か経って、
この時の話になったことがありました。
けれど娘は、
「えっ、私そんなことしたっけ」
と、本当に覚えていない様子で、
少し笑いながら、
「嘘でしょ、恥ずかしい」と言っていて。
あの時のことを、
こんなふうに話せる日が来るとは、
思っていませんでした。
今では、
あの時のことも、笑って話しています。
あの頃の私は、
ビデオを回す余裕なんてなくて、
ただ、その場にいることで精一杯だったけれど、
もし同じ場面にもう一度立ち会うことがあったなら、
今度はきっと、
そっとその姿を残しておくと思います。

