
最近、私の車には居候がいる。
小さなクモだ。
最初はたまたま入り込んだのだろうと思っていた。
ところがこの子、なかなか出て行かない。
車に乗るたびに見かけるし、そのうち隠れもしなくなった。
以前は人の気配を感じると逃げていた気がするのに、最近では平気で私の前を横切る。
なんなら少し近づいてくるようにも見える。
もちろん気のせいなのだろうけれど、毎日顔を合わせていると、なんとなく親近感が湧いてくる。
昨日は娘と一緒に出かけていた。
途中でお店に立ち寄り、車に戻ってきた時のこと。
娘が飲みかけのコップに手を伸ばした。
そして次の瞬間。
「ギャーーーー!」
と車内に響く悲鳴。
見ると、そのクモがコップの水に浮かんでいた。
どうやら探検中に落ちてしまったらしい。
私は慌てて棒のようなものを差し入れた。
正直、もう駄目かもしれないと思っていた。
ところが、その瞬間。
ぴくり、と動いた。
生きている。
急いで救出すると、なんとその子は私の手に飛び乗った。
もちろん「助けてくれてありがとう」なんて意味ではない。
ただ近くにあった陸地に移っただけなのだろう。
それから、車内のフロントガラス前のスペースにそっと移してやると、
今度は体をせっせと掻くようなしぐさを始めた。
まるで濡れた体を整えているみたいだった。
しばらくすると動かなくなったので、やはり弱っていたのだろうか・・・
ところが数時間後。
その子は何事もなかったかのように元気に歩き回っていた。
不思議なもので、その姿を見た時、ほっとしている自分がいた。
たかがクモ。
されどクモ。
毎日顔を合わせているうちに、いつの間にか「ただの虫」ではなくなっていたみたいだ。
昨夜は、車の窓を少しだけ開けておいた。
今日になって買い物へ出かけても、その姿は見当たらなかった。
「ああ、どこかへ行ったんだな」
少しほっとして、
少しだけ寂しい気持ちにもなった。
ところが夕方。
娘を迎えに行こうと車に乗り込んだ時だった。
ふと見ると、
私のドアのすぐ横に、その子がいた。
「あら、いたの〜」
思わず声が出た。
もちろん返事はない。
それでもどこか、
「まだここに住んでますけど?」
と言われたような気がした。
どうやら我が家ならぬ、
我が車の居候生活は、
もう少し続くらしい。
