🌿 車の居候さん

最近、私の車には居候がいる。

小さなクモだ。

最初はたまたま入り込んだのだろうと思っていた。

ところがこの子、なかなか出て行かない。

車に乗るたびに見かけるし、そのうち隠れもしなくなった。

以前は人の気配を感じると逃げていた気がするのに、最近では平気で私の前を横切る。

なんなら少し近づいてくるようにも見える。

もちろん気のせいなのだろうけれど、毎日顔を合わせていると、なんとなく親近感が湧いてくる。

昨日は娘と一緒に出かけていた。

途中でお店に立ち寄り、車に戻ってきた時のこと。

娘が飲みかけのコップに手を伸ばした。

そして次の瞬間。

「ギャーーーー!」

と車内に響く悲鳴。

見ると、そのクモがコップの水に浮かんでいた。

どうやら探検中に落ちてしまったらしい。

私は慌てて棒のようなものを差し入れた。

正直、もう駄目かもしれないと思っていた。

ところが、その瞬間。

ぴくり、と動いた。

生きている。

急いで救出すると、なんとその子は私の手に飛び乗った。

もちろん「助けてくれてありがとう」なんて意味ではない。

ただ近くにあった陸地に移っただけなのだろう。

それから、車内のフロントガラス前のスペースにそっと移してやると、

今度は体をせっせと掻くようなしぐさを始めた。

まるで濡れた体を整えているみたいだった。

しばらくすると動かなくなったので、やはり弱っていたのだろうか・・・

ところが数時間後。

その子は何事もなかったかのように元気に歩き回っていた。

不思議なもので、その姿を見た時、ほっとしている自分がいた。

たかがクモ。

されどクモ。

毎日顔を合わせているうちに、いつの間にか「ただの虫」ではなくなっていたみたいだ。

昨夜は、車の窓を少しだけ開けておいた。

今日になって買い物へ出かけても、その姿は見当たらなかった。

「ああ、どこかへ行ったんだな」

少しほっとして、

少しだけ寂しい気持ちにもなった。

ところが夕方。

娘を迎えに行こうと車に乗り込んだ時だった。

ふと見ると、

私のドアのすぐ横に、その子がいた。

「あら、いたの〜」

思わず声が出た。

もちろん返事はない。

それでもどこか、

「まだここに住んでますけど?」

と言われたような気がした。

どうやら我が家ならぬ、

我が車の居候生活は、

もう少し続くらしい。

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