
(森美術館/2026年5月)
今回の東京旅で、娘が「どうしても見たい」と言っていたのが、六本木ヒルズ・森美術館で開催されていた『ロン・ミュエク展』でした。
私はこの時まで、ロン・ミュエクという作家を知りませんでした。
最初は、同時開催されていたサンリオ展が目的かと思っていたくらいです。
けれど実際に行ってみると、どちらも長蛇の列。
「ああ、有名な展示なんだな」
と、その時点で少し圧倒されていました。

オーストラリア出身で、現在はイギリスを拠点に活動している現代美術作家・ロン・ミュエク。
人間を驚くほどリアルに再現した彫刻で知られ、実物よりも極端に大きかったり小さかったりするスケール感も特徴です。
作品はまるで本物の人間のような存在感があるのに、どこか現実ではない不思議さがあります。
「孤独」「不安」、人間の弱さまで感じさせる作品が多く、見ていると自然と立ち止まってしまいます。
今回の展示は、パリ・ミラノ・ソウルを巡回してきたもので、日本では六本木ヒルズ・森美術館で開催されており、2026年9月23日まで見ることができるそうです。
初期作品から最新作までが並び、制作風景を記録した映像や写真も展示されていました。
《In Bed》——最初から引き込まれた女性像
展示に入って最初の方にあったのが、《In Bed》という作品でした。
初期の頃の作品らしいのですが、全長が6.5メートルもあるそうです。
ベッドに横たわる女性。
ただそれだけの構図です。
近づくと、肌や髪、指先まで細かく作られていて、どこを見ても見入ってしまいます。
角度を変えるたびに印象が変わり、どの方向から見ても不思議な存在感があります。
リアルなのに、どこか現実から少し離れたような感覚に、私は自然と引き込まれていきました。


エンジェル・・・疲れたおじさんのような天使
これも印象に残った作品のひとつです。
天使なのに、顔はどこか疲れたおじさんのようで、羽を大きく広げているのに「神々しい」という感じはあまりありません。
何かをずっと考え込んでいるような表情をしていて、
「何を考えているんだろう」
「何に悩んでいるんだろう」
と、自然と思ってしまいます。
娘はしゃがみ込んで、じっくり見ていました。
見る角度によっては、少し「おっと…💦」となる感じもあり、そこも含めて妙に人間っぽい。
ロン・ミュエクの作品は、きれいに作られた“天使”ではなく、現実の人間の感情や疲れを残している感じがして、そこが強く印象に残りました。

胸元に赤ちゃんとスーパー袋の女性像
この作品も、私の中では特に印象に残っています。
最初に目を引いたのは、この女性の表情です。
無表情なのに、どこか疲れているようで、悲しそうでもありました。
よく見ると、胸元には小さな赤ちゃんがいて、両手にはスーパーの袋のようなものを持っています。
最初、私は赤ちゃんを抱いていることに気づきませんでした。
普通、赤ちゃんを抱いている人を見ると「幸せ」や「温かさ」を想像しますが、この作品からは、そういったわかりやすい感情があまり伝わってきません。
だからこそ、妙に気になりました。
「この人、何を考えているんだろう」
「疲れているのかな」
「何か抱えているのかな」
そんなことを、自然と考えてしまいました。
そして私は、この作品を見ながら、娘が小さかった頃のことを思い出しました。
あの頃、私はいつも疲れていて、毎日を回すことに必死でした。
もしかしたら、私もこんな表情をしていたのかもしれない。
ロン・ミュエクの作品は、きれいに整えられた存在ではなく、どこか現実の人間らしい疲れや弱さを残していて、その不完全さが妙に印象に残りました。

古い船に座る男性——細部に見入ってしまう作品
これは、娘が特に気に入っていた作品でした。
古い船に、ひとりで座る男性。
最初は少し遠くから見ていたのですが、近づくとその作り込みに目を奪われました。
肌や耳、船の傷や木の質感まで、どこを見ても細かい。
しかも、見る角度によって作品の印象が変わります。
少し離れると、ただ静かに座っているように見えるのに、近づくと、どこか孤独や疲れのようなものまで感じてしまうのです。
ロン・ミュエクの作品は、「リアル」なだけではなく、人の気配や感情まで残っているようで、不思議と見入りました。


写真をズームして、また見えてくるもの
ちなみにこれは、何かわかりますか?

近づいて撮ったのではなく、作品をズームした写真です。
家に帰ってから写真を拡大して見返してみると、ヒゲや肌の質感まで驚くほど細かく作り込まれていて、
娘と二人で「ここまで作ってるの…?」と、何度も見入ってしまいました。
展示を見ている時は、作品全体の大きさや空気に引き込まれるのですが、
あとから写真を見返すと、また違う発見があります。
展示を見て終わりではなく、
帰ってからもう一度楽しめる。
そんなところも、ロン・ミュエク展の面白さだった気がします。

制作風景を見ることができる展示
展示の途中には、ロン・ミュエクの制作風景を写したパネルも展示されていました。
作品だけを見るのではなく、どうやって生み出されているのか、その途中の空気まで見えるような展示です。
作業部屋には、制作途中の顔や人形のようなものが並び、少し不思議で、どこか静かな緊張感があります。
でも、こういう風景を見ることで、「あの息遣いのようなリアルさ」がどうやって作られているのか、伝わってくる気がしました。

最後に見た「頭蓋骨の山」——静かな死のモチーフ
そして最後に展示されていたのが、大量に積み上げられた頭蓋骨の作品でした。
調べてみると、100体もの頭蓋骨で構成されているそうです。
大きな空間いっぱいに広がっていて、その間を歩いて見ていく形になっていました。
実は、娘が「どうしても見たい」と言っていたのは、この作品だったのです。
最初に聞いた時は「頭蓋骨?」と少し驚いたのですが、実際に見てみると、不思議と怖さは感じませんでした。
もちろん、“死”を連想するモチーフなのですが、どこか静かで、むしろきれいだなと感じる瞬間もありました。
白い頭蓋骨が積み上がる空間を歩いていると、現実のようでもあり、現実ではないようでもあり、不思議な感覚になります。
ロン・ミュエクの作品は、生きている人間のリアルさを強く感じるものが多く、
最後にこの作品を見ることで、「生」と「死」がひとつの流れとしてつながっているような気がしました。
気づけば、怖いというより、ただ静かに見入っていました。

開催情報と余韻
実はこの「ロン・ミュエク展」は、2026年9月23日まで森美術館で開催されています。
長期間の展示ですが、それでも多くの人が訪れていて、実際に行ってみて、その理由が少しわかった気がしました。
リアルなのに、どこか現実ではなく、
静かなのに、強い息遣いを感じる不思議な作品たち。
本当は、まだ書ききれていない作品もいくつもあります。
写真では伝わりきらない空気もたくさんあったので、もし興味のある方は、ぜひ実際に足を運んでみてください😊

ちなみに、最後にどうしても見たかった《Dark Place》は、
あまりにも長蛇の列で、フライトの時間もあり、今回は見ることができませんでした。
遠くから少しだけ見た《Dark Place》は、暗闇の中の顔がとても印象的で、またゆっくり見たいと心から感じました。
