
前日の夜。
お風呂で、ちょっとした言い合いになった。
私たちは、今でも時々、一緒にお風呂に入る。
娘と私をつなぐ、小さな共有の時間。
前撮りのあと、そのまま着物で帰れるので、
どこかで写真を撮ろうと娘は考えていた。
私「○○神社で撮るのはどう?」
娘「でもそこ、友だちがもう撮ってるからイヤなんよ!」
私「じゃあここはどうだろう」
娘「そこも、もう友達が撮った場所!」
それから、娘は思いもつかないところを言ってきた。
確かに、娘が小さい頃に行ったことがある場所だけど、
もう今は、人も入らない雑木林のような場所。
私もついムキになってしまった。
「そこはちょっと・・・汚したらどうするのよ」
そう言った瞬間、ここちゃんの顔がすっとそっぽを向いた。
ほんの少しのことなのに、空気が離れる。
最近は“映え”のことを気にしているように見える。
でも、ちょっと言いすぎたかな・・・と、あとになって思う。
お風呂上がり、それぞれの部屋へ。
しばらく、沈黙。
でもやっぱり気になって、
スマホを片手にここちゃんの部屋へ行った。
「ねえ、さっきの場所のことなんだけど……」
そう言いかけた時、ここちゃんも同時に顔を上げて言った。
「ねえ、私もいいとこ見つけた!」
「せーの!」
で言った場所は、まったく同じだった。
顔を見合わせて、笑ってしまった。
──そして翌朝。
一緒に選んだ髪飾りを手に、スタジオへ向かう。
受付で、ここちゃんは自分からペンを取って、
ささっと記入を始めた。
その手つきを見た時、
なんか、ググッときて。
名前を呼ばれると、「はい」と小さく、でもはっきり応える。
その声の奥に、
幼いころの「かあちゃん〜」が、かすかに重なった。
少しずつ、手が離れていく。
でも、その温もりは、ちゃんと残っている。
カメラの光の中で笑うここちゃんを、
私は少し離れたところから、思い浮かべていた。
ふと浮かんだのは、昨夜のあの声だった。
「せーの」
きっと、こうやって少しずつ離れていくんだろうなあ。
少し寂しい気もするけれど、
あの声と一緒に、
今日のこの笑顔を、覚えておこう。
