🌾 田植えの季節に寄せて　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

季節の音と、ふたりの時間

少しずつ、田植えが始まりました。
私の住む地域は、今も“田舎”と呼ばれる場所ではあるけれど、
あの頃のような風景とは、少しずつ変わってきたように感じます。

新しい家が建ち、農道は舗装され、
あぜ道に腰を下ろしておしゃべりする人の姿も、いつしか見なくなりました。

子どもの頃は、田んぼの中を吹き抜ける風の音や、カエルの合唱が日常で、
それらが季節の訪れを教えてくれる、大切な“音”だったのです。

田植えの頃には、夜になるとカエルの鳴き声がメロディーのように響き、
それがそのまま子守唄になって、安心して眠りについたものでした。
夏には、蝉の鳴き声で目が覚め、「あぁ、夏が来たなぁ」と感じる毎日。
秋になると、鈴虫やコオロギ、キリギリスの音色が、どこか儚げで、
美しくて、どこか懐かしい——
季節は“音”とともに、私の記憶に刻まれています。

自然の音は、私の記憶の奥深くにある懐かしい時間を、そっと呼び起こしてくれるのです。

あの頃は、家の窓を少し開けて寝るのが当たり前で、
夜風とともに、外の音がすうっと部屋に入ってきていました。
虫の声、風に揺れる木の葉の音、時おり遠くで鳴く犬の声……
そんな音が、私の夜を、そして子ども時代をそっと包んでくれていたように思います。

けれど――

娘にとっては、この“季節の宝物”が、ときにつらく感じることもあったのです。

だから、同じ景色の中にいても、私と娘とでは、見え方も感じ方も、まったく違っていたのかもしれません。

同じ場所にいても、同じ風景を見ても、感じ方は人それぞれ。
それに気づかせてくれたのも、やっぱり娘の存在だったように思います。

そんな私たち親子の共通の趣味は、ドライブです。
今日は車で3時間ほど走って、高原へ出かけてきました。

途中、あちこちで田植えが行われていて、その景色だけでなんだか癒されました。

移り変わる季節と風景の中で、私は今日も、静かな“音の記憶”に包まれながら、
ゆっくりと懐かしさに浸った一日でした。
その時間ごと、季節の風景が胸に刻まれていくようでした。